地下室は遮音には最適ですが、調音には一工夫必要です。
はじめに音に関しては一般に承知されている表示として騒音計のdB(A)と特定の周波数に対する音の大きさdB(デシベル)があります。 人の可聴範囲は20Hz~20KHzです。時報のピッ、ピッ、ピーの音が1000Hzに当たります。 低い音と高い音は聞こえにくい性質があります。これを修正したのがdB(A)で1000Hzの音の大きさがほぼdBと一致します。
地下室で大きな音の出る楽器やPAをかいした音楽、映画音再生の目的は遮音性能の高さにあります。
音が近隣の騒音となるには発生した音源の音の大きさと、遮音する壁による損失、外に出た音が周囲に紛れ込むことで聞き取りにくくなるマスキング効果、ここからオーバーした状況が近隣に対しての騒音となります。
家庭で生楽器を使うときにはピアノが一般的ですが、その音の大きさは125Hzから1kHzで105dBの音の大きさです。ティンパニーで125Hzで130dB、バスドラムは125Hz以下が110dB、トランペットでは1000Hzで114dBの音の大きさとなります。
PAやオーディオの場合はボリュームコントロールがついているため、ここまで大きな音にはなりません。
地下室は鉄とコンクリート主体とした鉄筋コンクリート構造です。音は質量の重いものや密度の高いものは透過損失が大きくなります。地下室の壁や天井の厚さは20㎝以上となりますので、これだけでも1000Hzの透過損失は60dBにもなります。
コンクリートの外は土なので遮音に対してはまったく問題無く、天井の上は建物がのっているのでコンクリートから漏れた音は1階に入り、それから外に抜けます。地下への出入りのため階段とドアが必要となりますが、遮音性能を高めるなら階段室の間をコンクリートの壁として、空間を30cm以上とった防音ドアを2重にする必要があります。ここで、一番問題になるのがドライエリアを設けたときのアルミサッシからの音漏れです。性能の良いペアガラスでも1000Hzの透過損失は30dB程度です。
これに空気層を十分にとったガラス戸を1枚追加して40dBの透過損失が見込めますがピアノの最大音量105dBが窓を通過することで40dB引かれ65dBの音が外に放出されます。
静かな住宅地の昼間の暗騒音は45dB(A)、夜間で35dB(A)です。これと同じ大きさの音ですとマスキングされまぎれてしまうのですが、昼間の20dBの差ならまだしも夜間の30dB差は気になります。特に近隣が近接している時は要注意です。
夜中も弾くかロックのスタジオに使用するのでしたらドライエリアは造らずに室内からのピアノの搬入路を確保することをお勧めします。
遮音性能を確保した後は残響過多と響きのアンバランス、ブーミング、極度のフラッターエコーなどの音響障害が生じないようにすることから始まります。
音響効果の良い条件とは
の3つの条件が整っていることです。
室内に音が放たれたとき、受音点には音源から直接到達する直接音と、天井、壁などに反射して到達するたくさんの反射音が存在します。直接音に引き続いて到達する反射音の性質が音響効果に密接に関係することは、これまで述べたとおりです。
この反射音の性質を上げてみますと、
良い音響効果として、音が十分な音量で明瞭に聞こえ、しかも好ましい響きを伴っているとすれば、直接音が十分な音量で明瞭に聞こえ、50ms以内の初期反射音が直接音を補強し、残響音が適当でしかも十分拡散していることが必要となります。そのための基本的な建築上の条件としては以下のような点があげられます。
部屋の容量が大きいほど部屋の響きとしては好ましい条件で利用できるが、じゅうたくにおけるリスニングルーム、音楽練習室では部屋容積確保には限度があります。
小さな部屋での問題は、共鳴現象です。共鳴現象は部屋の寸法が波長の半分に等しくなる周波数でおります。この共鳴が現れると位置によって音圧レベルが上がり、音の定位も何もわからなくなります。
部屋寸法が波長に近づくほど共鳴周波数がひとつひとつ離れて現れ、部屋寸法が波長に比べて大きくなると、一つの周波数に対して色々な形の共鳴が生じ、全体として均一な音場となります。
真四角の部屋では、奥行きと幅の方向で共鳴現象が強調されます。部屋の寸法が小さくなるほど、この共鳴現象を避ける工夫が必要となります。普通の部屋ではあまり目立たないのですが、これは色々な形の振動が混ざり合って特定の振動が目立たなくなることと、家具などによる拡散、吸収作用のためです。
部屋の寸法をlx,ly,lzとすると、それぞれの方向とその組み合わせの方向に対して共鳴現象が現れ、直方体室の共鳴周波数は、次の式によって表わせます。
ここでcは音速、nx、ny、nzは0、1、2、3の整数です。このような共鳴現象は部屋の寸法比によって変ります。縦横高さの寸法によって決まる共鳴周波数が重ならず、適当な間隔で現れるようにするのが望ましいこととなります。
理想的な寸法比の一例として、1:3√2:3√22=1:1.26:1.59のような値があげられ、わが国の住宅寸法に当てはめてみると、次の表のようになります。
奥行き(m) | 幅(m) | 高さ(m) | |
10帖 | 4.56 | 3.60 | 2.86 |
15帖 | 5.67 | 4.50 | 3.57 |
20帖 | 7.16 | 4.50 | 3.57 |
音波は、その波長の2分の1以上の内法寸法を持った部屋でなければ、そこの空気には乗りません。例えばピアノの最低音のラ(A0)の波長は約12mですから、その音は6m以下の内法の部屋では空気に乗らないのです。
「でも、もっと小さな部屋でもA0の音はちゃんと聞こえるぞ」と言う人もいそうです。だが、それはA0の倍音列を聞いているのであって、その場合、人間の耳は基音を聞いたように感ずるのです。ですから、ピアノの音をきちんと弾こうと思ったら前の表のように20帖近くのスペースが必要となります。
部屋の奥行きと幅、高さで共鳴する周波数が決まることは前節で説明させていただきましたが、最低共鳴周波数付近の音は空気の動かないところ(音が聞こえない)ができます。部屋の長手方向と短手方向の中央と天井と床の中央、長手方向の壁から4分の1のところに節面と言われる音の聞こえない場所が存在してしまう。
つまり、オーディオルームでしたら聞く位置はスピーカーの反対の壁面に近く、右か左による。ピアノの練習でしたら弾き手の位置を部屋の中央に置かない、耳の位置が天井高の半分の聴手位置を作らない等の工夫が必要です。
部屋の長手位置の中央にできる節面
部屋の短手方向の中央にできる節面
天井高の半分の位置にできる節面
長手方向の4分の1にできる節面
寸法比の好ましくない部屋では後に述べる吸音材の配置とその構造によるほか、下図に示すように部屋の形状を不整形にするなどの対処も必要となります。
吸音材料は、その吸音機構の違いから板状材料、膜状材料、有孔板などの共鳴吸音材料、多孔質材料などがあります。合板やボードなどの比較的薄い板材料に音が入射すると、音圧のため板が振動し、音のエネルギーは板の振動という機械エネルギーに交換され、そのエネルギーがさらに板の内部摩擦、取り付け部分の摩擦による熱エネルギーとなって吸収されます。
有孔板などの貫通孔に音が入射すると、ある特定の周波数について共鳴現象がおこり、孔の口の部分で空気が激しく振動します。空気と孔の口の部分との摩擦によって音のエネルギーが熱エネルギーに交換されることによって吸収される。
グラスウールのような多孔質材料に音が入射すると、音はその小さな孔の中に入ってゆき、摩擦や粘性抵抗、材料の振動などによって音のエネルギーが熱エネルギーに交換されることによって吸収されます。
コンクリートや石材などは、低い周波数から高い周波数まで吸音率の小さい材料で反射構造を構成します。剛壁に空気層をおいて板を張った構造は、低音域吸音特性を持ちます。一般のボード壁や木製の家具などがこのような特性を持ち、有孔板や膜構造の背後に空気層を設けたときの構造は、中音域吸音特性となるが、有孔板については、開口率や背後の空気の厚さによって特性が変ります。グラスウールを空気層を設けて支持した構造では、中・高音域吸音特性となります。
一般的に施工される吸音構造とその特性を次に示す。
みらいテクノハウスでは実際の施工体験に基づいた、地下室の音響効果をご提案できます。
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